パスカルが文章で織りなすミステリの世界、いかがだったであろうか。しかし今回、僕らはまだその世界の一部しか僕らは形容できていない。
さらにミステリの世界を深く味わうために、読者の皆様に触れていただきたいミステリをここでは紹介したい。年代・著者も様々であるが、「あなたの好奇心をかき立てる謎」が潜んでいることは保障しよう。今やどんなジャンルの読み物にもミステリ的思考は潜んでいるといっても過言ではない。あなたを非日常へといざなう出会いを、今ここに。
『すべてがFになる』森博嗣
探偵役、犯人が魅力的であり尚且つトリック、伏線が素晴らしい作品。しかも読みやすい作品と考えて私が思いついたのは森博嗣のデビュー作でありS&Mシリーズの一作目である「すべてがFになる」であった。
本作品は今回の探偵役であるN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が訪れていた島で天才工学博士・真賀田四季の部屋の密室で両手両足が切断された死体が現れたことから始まる。
本作の魅力は数多くあり、犀川創平と西之園萌絵との魅力的な会話、やり取り、キャラクター、そしてよく考えられていてどんな読者をも納得させてしまう素晴らしい物理トリック。そして、これ以後の森博嗣作品にも度々姿を表す重要人物となる今作の印象深い犯人。天才とは何なのだろうと考えさせられてしまうストーリー。どれをとっても他のミステリ作品に劣らない完成度である。
しかし、なによりも凄いのは伏線である。一読目では普通の会話だと読み進めていた会話も2読目では伏線だと気づくことが何度も発生する。それだけでなく、タイトル「すべてがFになる」までもが壮大な伏線となっていたのだ。このタイトルがどういった意味で素晴らしい伏線になっているかを知りたい方はぜひ本作を読んでほしい。本作を読んだら驚愕することまちがいなしである。
そして今作を気に入った方はぜひともS&Mシリーズを読み進めて欲しい。きっと何度も驚愕することとなるであろう。
『仮面山荘殺人事件』東野圭吾
『探偵ガリレオ』シリーズや『白夜行』などの実写作品が大ヒットし、もはや東野圭吾を知らない日本人はいないだろう。今回は山荘を舞台東とした彼の作品、『仮面山荘殺人事件』を紹介する。
結婚を間近に控え、幸せの絶頂にあった樫間高之と森崎朋美。――しかし、朋美は交通事故に遭って帰らぬ人となる。その三カ 月 後、高之は朋美の両親から別荘で避暑を楽しもうと誘われ、参加することに。朋美の家族、親戚、友人合わせて8人の役者が集まり、幕が開く。些細な会話でも、朋美が登場すると空気が重くなってしまう...。
しかし、場の空気がほぐれてきた中で一石が投じられる。
「あの事故はおかしいと思うのです」
――この話は半ば強引に打ち切られるものの、疑問は残る。そんな中、逃亡中の銀行強盗が別荘に侵入し、事態は思わぬ方向へ。強盗の立てこもりに対し、脱出を試みるも失敗。
――そして、遂に殺人が起きる。強盗が犯人でないのは明らかだ。残りの7人は互いに疑心暗鬼となり...。一体、犯人は誰なのか。そして、交通事故の真相とは。
本書は山荘におけるクローズド・サークルという極めてありふれた設定がなされているため、ミステリ初心者でも読み易い。ミステリ好きの方であれば、途中で誰が犯人なのか気づかれることだろう。だからこそ、ミステリ好きのあなたに薦めたい。あなたの思い込みは二度覆される。
「葬儀を終えて」アガサ・クリスティ
アガサ・クリスティの作品を避けずしてミステリを語ることはできない。そんなミステリの女王が描く作品のなかで、私が最も「クリスティらしい王道ミステリ」だと思っているのがこの作品である。
クリスティと聞くと派手な舞台設定が思い浮かぶかもしれない。しかしクリスティの魅力は、何といっても探偵の言葉だけで語られ得る単純かつ技巧的な王道トリックと、現代人でも共感してしまう女性独特の鋭い人間観察に基づいたキャラクター造型である。
舞台はイギリスのとある富豪一族、アバネシー家。探偵役はかの有名なエルキュール・ポアロ。題名通り葬儀を終えた後から始まる回想型ミステリなのだが、本書のポアロはどこか安楽椅子探偵めいていて、他人から聞き出した情報をもとに推理する。
ポアロが脇役に徹するので、アバネシー家の人々が自然と前面に出てくる。こうして読み物としてぐいぐいと読者を引き込み、話は優雅に進んでゆくなかで、実は手掛かりが上品にしかししっかりと散りばめられている。
何といっても本作品の一番の魅力はこのトリックなのだ。犯人が誰か分からない。ミステリとしても小説としても、やはりクリスティの語りの巧さは郡を抜いている。
本作品は、現代ミステリのような凝った仕掛けやヘビーな設定が登場するわけではない。しかし、魅せ方や細部に「ミステリならでは」の魅力がつまっている。王道には、王道の理由があるのだ。
『恐怖の谷』アーサー・コナン・ドイル
シャーロック・ホームズという探偵の名を聞いたことがない人はいないだろう。しかし、ホームズらしくないといえばらしくない要素が詰まった本書を読んだことのある人はどれほどいるのだろうか。
ホームズシリーズの新たな魅力を発見できるであろう本書は「ホームズは昔読んだけど、最近読んでない」という方にもおすすめしたい。なぜならこの本は「大人向けのホームズ」と言えるからだ。
本書の魅力は第二部に集約されると言っても良い。第二部において、一気に舞台は二十年ほど遡り、1875年のアメリカに移動する。そして何といっても、ホームズと対等、もしかするとホームズ以上に魅力的な人物が主人公になるのである。かの有名なモリアーティ教授が、交わることのなかった二人を結びつける。
ここで基本的に人物描写が淡々としているホームズシリーズにおいて珍しい、濃厚な人間ドラマが繰り広げられるのだ。正義は必ず勝つわけではない。しかし私たちは血肉通った人物たちに魅せられるのである。 第一部も暗号やどんでん返しといった、探偵ミステリとしての魅力にも溢れている。しかし第二部まで読み終わったとき、私たちはホームズシリーズの新たな魅力を発見するだろう。
それは、大人になった今だからこそ分かる、1冊の本ではとうてい語り尽くすことができないシャーロック・ホームズ世界の奥深さである。ホームズが世界中で今も愛されている理由が、きっとあなたにも分かるだろう。
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