「生粋の文学少女」三宅香帆の本質にせまる
――元パスカル編集部の三宅さんも、今や売れっ子作家予備軍ですね! 本日はよろしくお願いします! まずは出版に至るまでの簡単な背景を教えてもらってもいいですか?
よろしくお願いします。私がバイトしている書店の店主さん(編注:天狼院書店店主・三浦崇典氏)が、お店のブログをきっかけにお客さんに店舗へ来てもらうことを狙って、バイトしている子たちみんなに店のブログへ色々書かせてたんですよ」
で、私も「何か書いてよー」って言われたんですけど、そんなに書けるネタがなくて(笑)。とりあえず本が好きだったので、おすすめ本の紹介ブログを書いてたんです。
そしたら、ある日書いた記事ブログの中で「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 《≪リーディング・ハイ》≫」という記事が、はてなブックマークとかネット上で異様にバズって、その記事を見た出版社の方から「本にしませんか?」とお声がけ頂いたんです。
――じゃあ、今回の本の内容はそのブログをまとめたものなんですか?
いえ、全部新たに書き下ろしました!ブログの方は20冊の本を選びましたが、今回の本は50冊の本プラス50冊の本それぞれに「次に読む本」を3冊ずつを挙げてます……ので、合計200冊の本をご紹介しています!きっと誰でも読めば、何かしら読みたい本が見つかるはずです(笑)
――今回の出版された本は、全国の本を愛する読者全般に向けて書かれた本だと思います。そこで今回は、せっかくのパスカルということなので、一方逆に、「京大生」に向けて絞ってみたら、何かおすすめの本などあったりしますか?
一瞬イロモノにみえがちですが、最近だと、『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎、光文社新書)はとても面白かったですね。進路としてドクターを検討している私にとって、本当に身にせまる学術系エッセイでした……!
――タイトルからして異色ですね(笑)そうなんですね。どういった点が魅力的だったのですか?
まず、ビルディングスロマンとして素晴らしかったんですよ! 主人公というか作者の前野さんが、どんな状況でもいつでも本気でかっこいいんです……!
この本は全て実話に基づいたエッセイなんですけど、困難に負けずに夢に向かっていく様子がどこか物語っぽくて。作者が幼少期にファーブル昆虫記を読んで「昆虫学者になろう!」と決意するところから始まって、研究材料を求めてアフリカに行ったりしながら、自分の夢をどんどん実現していくところまで描かれているんです。
――なんと。あんな表紙(笑)に見せかけて、そんなにアツい本だったとは……
しかも、それだけではないんです。彼は当然夢に向かって邁進しているのですが、研究がことごとくうまくいかなかったり、そもそも研究費が出なかったり……物語っぽいですけど、その中に現実的な苦難もたくさんあるんです。なかなか就職できないところとか、頑張ってきた研究がチャラになる瞬間とか、身につまされすぎて悲鳴あげました(笑)。
でも、ちゃんと現実的な困難をも乗り越えていくもんですから、研究者を目指す1人の院生として、読んでいて元気をもらえます。そんな、研究者の大変さという点でも共感できる良い作品だな~と強く思いました。
あと作者さんの文章がすごく上手くて、普通に読んでて笑えるポイントがいっぱいあったのも良かったです。久しぶりに本を読んで声を上げて笑いました!
――なるほど。本当に物語のような研究者エッセイなんですね。エピソードもたくさんあって、読んでいて飽きない内容みたいですね。
はい。一見色物に見せかけて全部本気!な点とかなど、京大生はぜひ見習うべきポイントですよね。研究者のロマンと、その過程の裏にある多大な苦労が織りなすスペクタクルな物語を垣間見ることに一読の価値ありです!
『夜は短し歩けよ乙女』ばっか読んでんじゃねーよ!
――ありがとうございます。バッタの話ばかりを永遠にしていてもアレなので(笑)。他の作品はどうでしょう? あえて活字ではなくマンガとか。
そうですねー。『にこたま(1)~(5)(モーニングKC)』(渡辺ペコ、モーニングKC、全5巻講談社)とかどうでしょう。
――おお、モーニング系列ですね。しぶい!
はい。フラフラしてる京大生に「いつまでもモラトリアムしてんじゃねーよ!」「いつまでもモラトリアムしてんじゃねーよ!」って伝えるには本当にベストな一冊なのではないでしょうか。
――京大院生が言ってしまいましたね(笑)。どんな点がそう感じさせるのですか?
京大生って基本的に「いつまでもこのままの状態でいられる」って思い込んでいるじゃないですか(笑)。きっと京都に住んでるから、サラリーマンとして働いている人を見ることも少ないし、院にあがる学生も多いし……。まぁ確実に私も「ずっとこのままでいたーい」と思い込んでるうちのひとりなんですけどね!
そんなモラトリアム大好き読者に対して、『にこたま』は、現実を思いっきり突きつけてくるというか。読んでると、「じ、人生~~~」って感じになりますね。
――人生(笑)。
お話の内容としては、簡単に言うと10年間同棲してるけど結婚してないアラサーのカップルがいて、女性(主人公)の方が子供を産めない体になってしまうのに対して、男性の方はたまたま一度夜を共にした寝た女性を妊娠させてしまう……ってところから始まるんです。ヘビーですよねっ!割とさらっと描いてあるんですけど。
――で実は私も読んだんですけど、本当にその通りでした(笑)。終始すごく重い話が続くという。女性作者なのに、でモーニング系列で作品描いているっていうのも面白いですよねー。
関係があるかはわからないですが、私の友達に『にこたま』をおすすめすると、いつも男性読者と女性読者で反応が違うっていうのも興味深いです。
――私は明確に最後の終わり方が苦手サイドの人間でしたね(京大卒・男性)。
ラストについては、特に意見が分かれますよね。多くの男性読者は「最後に主人公(女性)が妥協した!」~っていうマイナスイメージなんですけど、女性読者はむしろそれが良いというか、葛藤を乗り越えている感じがプラスだったりするので。まあこれ以上は完全に作品の話になってしまうので、読んだほうがいいですね。読んでくださーい。
――そうですよね。ちょっと内容が重苦しい内容な作品でもあるので、読むかどうかのを悩んでいる学生に勧める一言をお願いします!
そうですねっ、「夜は短し…」とかばっか読んでんじゃねーよ!でお願いします(笑)。いや私も、森○登美彦先生さんはむちゃくちゃ好きで好きで仕方ないのですが、それだけじゃだめなんですよ! もう黒髪の美少女乙女ばっかり求めてちゃだめなんだよっ!!!
というわけで、京大男子生も学生のうちに現実を知っておきましょう。そのために『にこたま』を読んでおきましょう。現実には黒髪の美少女乙女はいません。
――なるほど。これは我々男性陣も家に帰って反省会ですね(笑)。話題を変えて、これまでは本のタイトルや内容ベースで話が進んでいましたが、本好きの三宅さんから見て、本の読みやすさとか、文章の書き方などから、良いなって思う作家さんはいらっしゃるんですか?
文章の書き方がかっこいいのは、とりあえず小林秀雄ですかね。ああ~~もう本当にかっこいい、ただかっこいい~~。ぜひ読んでみてもらいたいですね。
京大生向けだったら、『考えるヒント』(小林秀雄、文春文庫)とかどうでしょう。タイトルはなんか微妙ですが良い本です(笑)。それもそのはず、Amazonのレビューで、「編集者により、考えるヒントという紛らわしいタイトルをつけられたそうですが……...」と書いてて笑っちゃいました。
――(同笑)。
とりあえず小林秀雄の文章ってキラキラしてるんですよね。なんなんですかねー、あれ。結構まわりくどい言い方をすることも、言ってること本当ほんとかいな!って思うことも結構あるんですが、文章がキラキラしててかっこいいのでとりあえず読んでしまいますね。とにかく文体?がキラキラしてるっていうか。
――やっぱり文体大事ですよね。三宅さんもパスカルで記事書いてた頃から、文体は独特でしたもんね(笑)。でもそれが面白い記事も量産してくださったり、cakesやはてなブックマークでバズったりしてる要因なんでしょうね。
そうなんですかねー、文体ってあんまり自分じゃわからないのですが (笑)。ただ村上春樹と川上未映子の対談(『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮社)より)でも、村上春樹が「最も大事なのは文体だ」って言ってましたね。
そういった観点でいうと 、最近の出た小説の中にはどうしても文体が読む気になれないものが多くって悲しいです……...作品名は控えますが(笑)。もうこればっかりは「小林秀雄読め!」って感じですね。
あとは蓮實重彦とかも文体かっこいい人ですよね。なんであんなかっこいいんですかね。これももう読め!って感じですね。『夏目漱石論(講談社文芸文庫)』とか、『「赤」の誘惑―フィクション論序説(新潮社)』とか、とりあえず読んでから考えましょう!
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