◆これまでのあらすじ
京都の某大学に入学したパス男は、そこで「Pascul」という謎のサークルと出会う。大学デビューをもくろみ、期待に満ちあふれていたパス男をそこで待っていたのは、4回生でマツコ・デラックス似の性別不明の先輩、カル子だった!カル子は歯に衣着せぬ言動で容赦なくパス男を一刀両断していく。
初めは恐怖心に満ち溢れていたパス男だったが、カル子の博覧強記ぶりと、ウサギを抱いたときのカル子の瞳の奥に秘められた優しさを垣間見たことによって、「Pascul」で大学生活を送っていくことを決意したのであった……(これまでのパス男とカル子の活躍が見たい方は、Pascul vol.3を参照していただきたい。)
◆世界滅亡論と「太陽嵐」
パス男(以下P):いやーついに来たぜ2013年!僕も4月からは2回生になるし、後輩ができるのかぁ……たのしみだなぁ!
カル子(以下C):後輩ができるってことは楽なことじゃないわよ、パス男。現に私がこの一年どれだけあなたのために色々なことを一から教えてきたか……。
P:でもそんなつらいことも、後輩の笑顔があれば忘れちゃうんじゃないんですか??
C:馬鹿言ってんじゃないわよ!あんたみたいなやつ、誰が好き好んで後輩にしたいって言うのよ!手間がかかるわ、覚えは悪いわ、遅刻はするわ……あんたなんか死んじゃえばいいのよ!!!
P:うぅ…そこまで言わなくても……そういえば今年、2013年の3月には小惑星が地球に激突するらしいですよ!そしたらみんな死んじゃいますね!もし本当ならカル子先輩どうします??
C:またあんたはそういう話題ばっかり……2012年12月23日に世界滅亡、なんてマヤ歴の予言が外れたばかりじゃないの…… そういう何の信憑性もない「世界滅亡」論を口にしていいのは、80年代のサブカルチャー論者くらいよ。まぁひとつだけ言えるとすれば、世界が終わる瞬間にあんたとは一緒にいたくないわね。
P:今日はカル子さん冷たいなぁ……
C:じゃあもう少し現実的な世界滅亡のお話をしてあげようかしら……パス男くんは「太陽嵐」、って知ってる?
P:まったく知らないです。「神砂嵐」なら知ってるんですが……
C:あんたはそっち方面の方が詳しそうね。それは置いといて、「太陽嵐」っていうのは、太陽の活動が活発化すると太陽の表面でものすごく大きな爆発が起きた時に、その衝撃で生じる「風」が地球にまで届いてくることがあって、それを「太陽嵐」と呼んでいるの。太陽表面の爆発エネルギーは水素爆弾何億個分ともいわれていて、その中でも最大の「太陽嵐」が2013年の5月頃に、地球に来るかもしれないと予測されているのよ。
P:えええ!!!そんなの飛んできたら即死じゃないですか!!!ワムウどころの話じゃない!!!生きていられるのは究極生命体カーズ様くらいだ!!!
C:馬鹿ね。衝撃で即死するわけじゃないわよ。地球まで飛んでくるのは電磁波や紫外線。真っ先にやられるのは私たちの生活を支えるインフラの方よ。以前に大規模な「太陽嵐」が来たのは19世紀中頃で、その時は普及途上にあった電子機器がやられたらしいわ。もし現代で大規模な「太陽嵐」が来れば、地球上の電子機器はもちろん、宇宙に浮かぶ人工衛星はほぼ100%活動を停止、下手すれば地球に落下してくるわね。そうするとGPSを中心とした交通網は完全停止。ただでさえスマホの普及で回線がパンクしそうな通信網も、どうなることやら。それとどこまで大量の電磁波や紫外線がくるか計測は不可能だから、人体被害についても、最悪屋外に出られないなんてこともありうるわね。
P:う……それこそまさに地球滅亡ですね。何か回避する方法はないんですか?
C:あたしが言ってたのは最悪のシナリオで、実際には色々な条件があるから一概には言えないわ。NASAでも研究は進んでいるらしいし、実は日本の京都大学でも太陽嵐の研究は行われていて、観測データから太陽嵐の数値モデリングを導き出すことに成功しているの。この技術で太陽嵐の予測はかなりしやすくなるらしいわ。この数値モデリングは宇宙の天気予報とも呼ばれているのよ。
P:それなら少し安心だぁ……
C:それでもこのレベルになると完全に防ぐ方法はないし、そういう意味では世界滅亡を私たちはただ待っているだけよね。この場合、自分と自分の周りのものを最低限守れるようにしておくことの方が大事かしらね。
◆自然災害と人災は同じ?
P:こう聞くと日本で起きた東日本大震災や原発事故も、僕らからすればすごく予測しがたい事態ですよね。でもその中でどうするかをきちんと考えておかなければならないってことは分かりました。一度そういうことをきちんと考えてみます……
C:パス男くんの姿勢は半分正解ね。でもやっぱりちょっと勘違いしている節があるわね。
P:う…またなんか僕、またまずいこと言いました…?いい感じで締めようとしたのに……
C:超初歩的な視点として、自然災害である地震や太陽嵐の話と、人為的な判断ミスによって起きた原発事故は全く違う問題でしょ。自然災害は人間がどう抗おうと減らせないけど、人間のミスによっておこる「人災」は私たちの努力次第で減らせるものよ。
P:確かに、カル子さんの言うとおりですけど…でも僕らではどうにもならないっていう点では同じじゃないですか?自然災害も、例えばいつか起こりうる核戦争も、やっぱり僕からは同じものに見えてしまいます……
C:あらあら。じゃあ最後に少しだけ明るい今後の話をしましょうか。「自然災害も、人災も全く変わりないじゃないか」っていうパス男くんの指摘は、すごく感覚的には正しいと思うわ。それをもっと理論的に説明してしまった人がいるのよ……
◆「お金」より「安全」の社会へ
C:まず、人災が自然災害のようなコントロール不可能な悲劇のようになってしまった原因は近代社会の異常なまでの複雑さにあるわ。特に現代のような、無数の因果関係が、お互いに複雑に関係しあって簡単には目に見えない社会では、一個人のミスが予想もしない方向に連鎖していった結果、共同体全体を滅ぼしうることもありうる。例えば原発事故だって、個々のミスは小さくても、条件が複雑に絡み合って大きな事故に至るの。
C:そんな社会像が人々の間で共有されると、社会的な不安は増大し、人々は必要以上に「安全」を求めるようになっていく。ゆえに現代を規定する大きなシステムが、現在の「裕福/貧困」という資本主義的な指標ではなくて、今述べた「安全/危険」という安全保障的な指標に移行するだろう、という説を述べた学者がいるの。この人こそがウルリッヒ・ベックというドイツの学者で、かの有名なチェルノブイリ原発事故を目の当たりにして、この学説を説いたといわれているわ。
P:なんか難しい話になりましたね……要するに、社会的に見て「お金」から「安全性」へと優先順位がどんどん移行していくってことですか?そうだとして、これのどこが明るい話なんですか?
C:パス男くんにしては、物わかりがいいわね。私の話に関してはそういうことよ。一見殺伐としているベックの学説の希望足りうる点は二つあって、第一に今までの資本主義的な思想をアップデートできる可能性がある、という点ね。たとえば「少し危険だけれど、富の構築のためにやむを得ない労働」なんかは完全に撲滅される可能性があるわ。人々の安全に対する意識が高まることで、今なお残る資本主義の悪い部分がなくなるかもしれないわね。
C:それと第二に、人々の「未来」への行動を積極的にする確率が高い、という点よ。考えれば簡単なことだけど、「安全/危険」の判断基準は過去や現在でなく、未来にあるの。難しい言葉でこれを「未来被拘束性」というわ。要は未来が安全でなければ、過去や現在がいくら安全でも全く意味がないということね。そういう状況の中で、人は未来の安全の獲得に向けて行動せざるを得ないの。複雑化した社会において何もしないという選択は、予期しない危険を被る可能性を上げることになる。未来をより「安全」にするためにはありとあらゆる危険の可能性をあげていって対策していくしかない。少なくとも資本主義のような、つまり「裕福/貧困」という過去の積み重ねを判断基準にするシステムよりはずっと行動は活性化するかも、知れないわね。
P:確かに「安全第一」を信条とする社会ができれば、資本主義の悪いところはなくなっていって、人々が社会的な行動を起こす可能性がグーンと上がる、ということですね。
C:今の世の中はインターネット社会で個人レベルでの発信技術も進歩しているし、資本主義に支配された社会を、市民レベルの行動が変えていける可能性が今後高まっていく、と言えるかもしれないわね。どう、ここまで聞くと明るい話にも聞こえてくるでしょう?まぁ実際は問題点や矛盾が山積みで、こんなに上手くいく話ではないんだけど……それでも、面白い考え方だと私は思うわ。
◆終わりに
P:未来への行動、か……カル子先輩!俺、分かりました!僕も自分の未来を、もっといい未来にするために今日からもっともっと色々頑張ります!まずはカル子先輩みたいに博識になって、後輩に尊敬してもらうぞおおおお!とりあえず図書館行って本読んできます!!!今日はありがとうございました!それじゃこれで!うおおおおおおおおおおおお(図書館へかけていくパス男)
C:やれやれ、単純ね、パス男は。あんたに安心できる日はいつのことになるやら……あたしから言えることは、世界滅亡とか自然災害のような「変えられない運命」は受け入れるしかないのかもしれないけれど、私たちの手で「変えられる運命」だって案外多いかもしれないってことよ。あとはパス男に、それを見分けられる「知恵」がつけばいいわね……2013年のあなたの成長を、祈っているわ。
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