おそく起きた朝の奇妙な出来事

おそく起きた朝、私は昼食を食べようか食べまいかでずいぶん悩む。


私は常日頃から自分の好きなものやおいしいもの以外はできるだけ食べたくないと、飲みたくないと思っていて、そしてそういうストイックな、食べ物飲み物に詳しく、そんじゃそこらのものでは満足しないぞという精神を大事にしたいと、持ち続けていたいと思っていた。


たとえばある先日の出来事であるが、普段から冷蔵庫を空にする癖があるので朝起きても昼食がない、調味料しかない、なのでシャワーを浴び身支度を整えてから外に出て食べ物にさまよう。多くの学生であれば近くの喫茶店、コンビニ、レストランでおなかを満たしてしまうであろうが認めたお店にしか行けない私にとってそれは背徳行為である。


そこで私はあえて食べないことを選択したのである。


地元の老舗喫茶店「かふぇ‐香帆‐」に入りそこの店オリジナルのグアテマヤコーヒーを注文した(香り高くとても苦いがこれぞコーヒーと言えて、コーヒーの中のコーヒーである。ちなみに名前が「グアテマヤ」なのは店主がマヤさんであるからで、「グァテマラ」をもじった洒落であり間違えではない)。あえてというかそうせざるを得なかったわけではあるが。


そしてこれは昨日の話である。その日は12月初頭だというのに朝から吹雪がふいていた。部屋のフローリングの冷たさが足からじんじんと伝わり、あらゆる物が痛々しく感じられた。


しかし知らず知らずに体温が奪われ布団の中で読書をしていただけだったお腹がすいてしまっていた。


仕方がなく私は徐に着替えて外に出た。外に出たのはいいがやはり食べる当てはなかった。そして雪の降る中当てもなく適当に歩いていると普段は気付かず通り過ぎていた小道がその日たまたま目に留まった。


その小道は人目につかずごく平凡な通りで私を惹きつけるような何かを持っているとは思えなかったが、私はなんとなく今日はそこを歩いてみようと思った。


そこは一軒家が並ぶ界隈で、その小道に並ぶ多くの家々の白い壁が変色して土色に変わっていた。家の中に人が住んでいる気配すら感じられず不気味で殺伐としていたが、何かに突き動かされるがごとく邁進していった。


5分くらい歩いてみるとそこには洋食屋さんと思しき家屋が佇んでいた。壁面にツタが這い、いかにも西洋の森の中にありそうな家であった。雨が降ったせいなのであろうか屋根の甍や入口の扉と壁の隙間などが腐食していて趣があるというよりはただのボロと言ってよいと思われた。私はここに入ろうと決めた。


その洋食屋の中はほどよく暖房が効いていて。入り口近くの数席のカウンターとその手前にテーブル席がいくつかあり店の一番奥に大きめの円卓のテーブルが一つあり、客はいなかった。


そして私は入り口から二番目に近いカウンター席に座ったがそこの主人は私が入っても気づかないかのようにグラスを洗う作業を続けていた。


席に着くと主人は何食わぬ顔でメニューを持ってきて私の前で広げた。それは重厚で本革らしかったが中を開けると「ハヤシライス」と「ビーフシチュー」という文字が白い厚紙に書かれているだけだった。私は「ハヤシライス」を注文することにした。


料理を待つ間、起きてからこの店に来るまでの一連の流れについて考えてみた。


私はいつものように起きて普段していた作業を繰り返しただけだが今日に限ってなぜあの小道を見つけたのだろうか。なぜそこを通ろうとしたのか。そしてなぜこの洋食屋に入ったのか。私は昨日までの体調、読んだ本の内容、見た夢について原因となるものについて考えてみたが思い当たるものはなかった。


そんなことを考えているうちに料理が運ばれ、途端に自分がとてもおなかをすかせていたことに気が付いた。


それはとても大きなスプーンとともに運ばれてきた。美味しそうな見た目をしているわけでも豪勢なさらに載せられているわけでもなくただのハヤシライスに見えた。私は大きなスプーンでルウだけを口に含んだ。


それはとても奇妙な味であり甲とも乙ともつけがたい微妙な感覚であった。(続く)

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