コンフォータブル(6)2016.04.08 01:23 ぬめぬめとしたそのコバルトブルーが波の上の空を覆い尽くした頃、岩礁にその身をさらす白波を、どう塗り直すかについて、僕は頭を悩ませていた。幾日も白い絵の具を重ねたその波の部分は、ところどころが波の飛沫の方向に沿って盛り上がっている。そのすべてが、この絵を描いていた歳月を自分に思い...
コンフォータブル(5)2016.04.06 02:03 僕は何も言わずに教室を出て廊下へと走った。これ以上寺島とは目を合わせたくなかったし、そもそもそんな権利を与えられていない気がした。だから寺島がどういう風にその時の僕を見ていたのかわからないが、廊下を出てふと振り返るとさすがに僕の後をついてきてはいなかった。手持無沙汰になってしま...
コンフォータブル(4)2016.04.04 14:05 絵筆を持った指先に力が入り、パレットの上で絵筆の毛先が開いて、青の絵の具と油をたっぷり含んでいく。そのまま、絵筆に含ませたどろどろの青を、白波の上に浮かぶ空の表面にゆっくりと重ねる。油をいっぱいにまとわせて、その青い絵の具はその絵に再び輝きをもたらしていく。 油絵はその重厚感に...
コンフォータブル(2)2016.04.01 12:37 僕は美術室の後ろに立つ、錆びた掃除用具入れのようなロッカーの前に向かう。ロッカーを開けると中から油と絵の具のにおいがツン、と鼻をさす。けれど、このにおいもしばらくして空気中に広がりきってしまえば、どこか心地よいにおいへと変わっていく。 ロッカーの中から、絵の具と油、パレットと絵...
コンフォータブル(1)2016.03.30 16:29 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。と同時に、朝からぐんぐんとふくらんで今にも張り裂けそうになっていた教室の閉塞感がぷしゅう、と空気が抜けた風船みたいにしぼんでいった。たった今まで、僕の目の前にはマッチ棒みたいな黒い頭が等間隔にいくつも並んでいたのに、間延びしたチャイムの音...
就職面接2015.10.21 11:18「終了五分前になりました」愛想の悪い顔で、僕の隣の愛里が言った。愛里は入社一年目の同期だが、いまだに打ち解けられたためしがない。愛里がときおり見せる、すこしはにかんだ笑顔を僕がお目にかかることは今後あるのだろうか。そんなことを考えながら、僕は目の前の面接者にこう言った。「それでは...